今回はちょっと、ネタバレになってしまうといけないので、「この絵が可愛い!気に入った!」という方は、どうか、この先を読まないでください。
もし鶴ヶ島市民の方の場合は、どうか、鶴ヶ島図書館で借りてください。貸出予約の使い方はこちら。
初めは気がつかなかった長所
なんということの無い内容です。それでも、さらっと一読して、優しい、ものすごく素敵な絵本だと感じました。
「なんということの無い」というのは、一見失礼な表現かもしれません。けれど、作者の個性が一歩後ろに下がって、絵本と子供に、自分を捧げているような印象を受けました。
そして、その事になぜか(こういう控えめな表現は、現代ではもうみれないかもしれないな。)と感じました。
その後、忙しさもあって、この絵本から離れてしまったのですが、図書館に返却する直前に再読した所、大変な事に気がつきました。
よく見ると森の動物たちは、鳥獣戯画を原型にしていたからでした。
鳥獣戯画
鳥獣人物戯画(ちょうじゅうじんぶつぎが)は、京都市右京区の高山寺に伝わる紙本墨画の絵巻物。国宝。鳥獣戯画とも呼ばれる。現在の構成は、甲・乙・丙・丁と呼ばれる全4巻からなる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 鳥獣人物戯画
内容は当時の世相を反映して動物や人物を戯画的に描いたもので、嗚呼絵(おこえ)に始まる戯画の集大成といえる。特にウサギ・カエル・サルなどが擬人化されて描かれた甲巻が非常に有名である。一部の場面には現在の漫画に用いられている効果に類似した手法が見られることもあって、「日本最古の漫画」とも称される。
国宝の影響を受けて、作者なりの方法でアプローチをして描かれた絵本、というのを私は初めて知りました。(あったのかもしれませんが、私には初めてでした。)
著作権は基本的に、作者の死後70年間は著作権法によって保護されます。保護期間が終了した著作物は法的な保護が消滅するので、著作物は誰もが自由にコピーしたり演奏したりできるようになります。このような権利の消滅した著作物をパブリックドメインといいます。
そういう意味では、たとえ模倣であっても、今回は全く問題がなかったのだと思います。
きっと好きだよね?
たとえば、盗作、というのは、元の題材を知られては困るものだと思います。
でもこの絵本はむしろ、元の題材を知っていて欲しかったのではないか、と思いました。
原画を知っていても知らなくても楽しい。けれど、知っていると二重、三重に楽しい。
「わたし、これが好きなんだ。君もきっと好きだよね?」と子供に優しく話しかけるような感じがするのです。
こうしたことは、うまくできないと私物化っぽくなり、鳥獣戯画を愛好する人々が、ヘソを曲げてしまう所だと思います。けれど、この絵本には全くそういう所がない。
どんな気持ちで絵本を作ったのだろうと思うと、親切な気持ちや、楽しい事を、ただ純粋に、子供と追求したかったのではないかと思いました。そして最初に、一歩後ろに下がった印象を受けた理由は、そうした優しさと、芸術に対しての敬意があったからではないかと思いました。
本物を知る時までの楽しみ
むかし読んでいたお気に入りの絵本が、国宝の絵と同じ気配をまとっている。
そう知ったら、その子は将来、とても愉快な気分になると思います。
見た事がないのに懐かしく、親しみを感じる。
その事が何になるのか、何の役に立つのか、私にはわかりません。
けれど、長い時間をかけた、大きな楽しみがきっとあると思います。
この絵本を読んで、つくづく、私もそんな子供時代を経験してみたかったと思いました。
同時に、この絵本を、みんなに読んでもらえたらと思いました。
だから、もしあなたのお子様や、あなたのまわりに小さなお子様がいらしたら、ぜひ、そんな経験をさせてあげてほしいと思います。ただ一緒に読んであげるだけで十分だと思います。
何しろ、何ということのない内容なのです。
それでも、この絵本が素晴らしいと言える世の中であってほしいと、私は思う気がします。
今回の絵本
もりのふゆじたく
福音館書店
たるいしまこ作
もりのふゆじたく、きのみケーキ、あたたかいおくりもの
「もりのおくりもの」シリーズの1冊です。
追記:この絵本、鶴ヶ島市立図書館ではちょっとぼろぼろでした。絵本たち、どうかこれ以上のダメージを受けませんように。みんなで大切に読めたらいいですね。